■■■旧著探訪(3)■■■ |
東南アジアの日常茶飯 ■前川健一著・弘文堂・1988年■
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【前口上】著者・前川健一氏の『バンコクの好奇心』(めこん)を皮切りとする一連の“タイもの”はほとんど目を通している。タイと言えば、前川さんという図式が私にはできあがっている。最近では『アフリカの満月』(旅行人)といった、東南アジア以前の旅のフィールドものの著作も目にするようになった。著者の旅の創世記を覗くような思いがして、これまた興味深い。さて、前川さんの“タイもの”の出版が活発になるのが90年代から。本書はその少し前、80年代後半に刊行された東南アジア「食文化観察ノート」。タイものデビュー作ともいえる名著。
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高級なレストランは出てこない。いわゆる屋台が舞台である。調理場の道具立てから、食材・調味料・米・麺・食事の仕方・飲料に酒、そして排泄(便所事情)に至るまで、前川流の微にいり細をうがつ手法で語られる食文化観察の報告。著者自身が「あとがき」で、「ただの遊びであり、ヒマつぶし」から始めたものが、「年を追うごとに深みにはまっていった」と述懐しているように、たしかに遊び心がないとここまで徹底して枝葉末節を書き込めないだろうなと思う。
「スプーンとフォーク」という一文から。そのなかで、スプーンとフォークによる食事作法の考察がなされている。「いつもフォークは手前で、スプーンはその向こう」、スプーンは「飯の山を切り崩すように手前に持ってくる」、フォークの背は外側に向けて、スプーンで引き寄せられた飯をせき止める、飯は皿からこぼれることなくスプーンに入る、このスプーンとフォークの位置関係に例外はないという、数百人を観察して導き出された一大定理の発見。これを発見したからといってなにか役に立つわけではないけれど、こういうの、私は大好きだ。対象にとことんこだわってゆくライターとしての執念。過去の文献への幅広い目配り。ひとつひとつは枝葉末節のテーマではあるかもしれないけれど、これでもかっ!と徹底して一冊にまとめられてしまうと、既成の文化誌が漏らしてきた数々の不明を埋めてくれる貴重な文化誌になる。
(か)2002.9.16 |
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