わがふるさとの[インド]神と自然との共存 ■プラフラ・モハンティ著(小西正捷訳)・平凡社・1975年■ |
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エントロピーという概念を使ってもうひとつの世界観の提示を試みた『第三の道』(糸川英夫・中公文庫・1994年)という本がある。このなかで「エントロピーの法則で計ればインドは超先進国である」という章があるのだが、この言わんとするところは『わがふるさとの-』からも読みとれる。エントロピーを増大させることなく、「神と自然との共存」をふまえて永続的に未来を確保していくスタイルが腑に落ちてくるのだ。 もうひとつ、同書『第三の道』で言及されている「インドの貧困」という命題に対する解答として経済学者ガルブレイスの「絶対的ともいえる貧困での均衡状態への順応」という仮説が紹介されている。社会発展を促進する大きな要因として、民族移動の多寡を基軸に考える説だ。アメリカを例に、相当量の異民族の移入・移出によってある種閉塞した均衡状態は破られ社会は変化・向上していったというもので、インドは久しく大量の民族の移入・移出の経験がない、それが絶対的貧困の均衡状態を保っているという。しかし相当量の民族の移入・移出がなかった日本は、逆の意味で、この理論が当てはまらない。そういう文脈の下りがあるのだけれど、インドの「均衡状態」を解く鍵はたぶんカーストだろう。それは『わがふるさとの-』で登場するさまざまなカーストに属する村人の語り口から見えてくる。カーストを声高に打破せねばならぬ制度だとは誰ひとりとして考えていない。生まれおちたカーストの制約のもとで、与えられた職業に就き、立身出世の野心をもつことなく、競争することもなく、その運命をたんたんと受け入れていく安心立命的人生観。ガルブレイスのいう「均衡状態への順応」は、カーストによってもたらされるその人生観に起因しているといえるだろう。しかし、だからといって、私たち外部者がその否定的側面ばかりを強調しては、この「ふるさと」を読み違えることになってしまう…。 (か)2002.2.02 |
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