大アジア思想活劇 仏教が結んだもうひとつの近代史 ■佐藤哲朗著・オンブック・2006年■ |
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アメリカの田舎では日曜日に教会に行かなければ村八分になるそうで、キリスト教は「ムラの宗教」として位置づけられ、そうした<しがらみ>から解放を願う人々が、いま仏教に注目しているという。アメリカでは仏教は「自由な個人が自己探求を行える宗教」として考えられている。 著者曰く、日本では仏教は「イエの宗教」としてあり、そこからの解放を願う人がキリスト教に向かった。日本とはまったく反対の構図があった。 所変われば品変わる、だ。 さて、今回紹介する『大アジア思想活劇』は19世紀後半から20世紀初頭における、日本とスリランカ、インドを舞台にした仏教交流のドキュメンタリー。明治維新を終えた当時の日本は、いわゆる「廃仏毀釈」が盛んで、「仏教」は青息吐息。そうした状況を打破しようと仏教復興に賭ける日本人僧と仏教系知識人は「外圧の利用」を求めた。外圧として登場するのは、仏教発祥の地でありながらその痕跡をほとんど伝えていないインドにおいて、聖地ブッダガヤ再興に奔走するスリランカのダルマパーラというカリスマ僧、そして仏教的精神世界を唱導していた神智学会のオルコット大佐とブラヴァツキー女史……。興味深い面々の交流を通して繰り広げられる仏教近代史だ。大乗と上座部、仏教とオカルティズムにスピリチュアリズム、社会改革主義とナショナリズム、アーリアン思想と帝国主義、仏教を核に、さまざまな思惑・言説が齟齬をきたし反発し、ときには調和し連帯する、そうした離合集散を文字通り「活劇」として楽しく読める。 「活劇」の時代から百数十年を経た現代、仏教は復権したのだろうか――。 冒頭の上田紀行氏のレポートには、バラモンの儀式宗教に反旗をひるがえして生まれてきたのが仏教であり、「その起こりから仏教は個人を救済し世界を救済する、大きな時代的な責務を負っているものとして認識されている」と。「内面(の覚醒)と社会性のダイナミズム」が未来を切りひらいていく。社会参加型<世界仏教>として注目されつつあると述べる。 しかしながら、私たちの周りを見渡すと、その高邁な宗教観とは別物の、檀家システムに支えられたお寺さんの行状が「なんだかなー」の思いを起こさせる。この落差にとまどいを覚えてしまうのだが、さすがに上田氏の目配りはきいていて、スタンスを変えて、『がんばれ仏教!』(日本放送協会)という現代の仏教再興物語がある。この本はお寺さんへのエールになっている。 ともあれ、海の向こうでは仏教をめぐる新しいムーブメントが生まれつつあるということだ。明治の時のように再び「外圧」を利用しながら日本仏教の再生を図る時機が来たのかもしれない……。 ●今回紹介した本は、著者の佐藤哲朗氏が主宰するメールマガジン「大アジア思想活劇」を書籍化したもの。メルマガ配信で読んでいたのだが、本になることを心待ちにしていた。オンデマンド出版という手法がとられており、注文すると一冊から印刷して届けてくれるというシステム。ただひとつ残念なのは、校正がいまいち徹底していない点。編集者不在の、テキストをただ流し込んだだけの本づくりといった印象を受けた。とても力作だけに、ほんとうにもったいない。(か)2006.9.14 【ご案内】 ●大アジア思想活劇のホームページ:http://homepage1.nifty.com/boddo/ ●本書の注文ページ:http://www.onbook.jp/bookd.html?bid=0043 価格:4200円(税別) 仕様:四六判460頁 発行日:2006年8月8日 |
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