■■■旧著探訪(6)■■■ |
李朝残影 梶山季之朝鮮小説集 ■梶山季之・インパクト出版会・2002年■
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【前口上】本書は2002年の出版である。だからタイトルの「旧著探訪」にはそぐわないのだけれど、どうしてもこのコーナーで紹介したかった。書名となっている「李朝残影」、そして「族譜」など梶山の朝鮮モノの初期作品が再び世に出たことがうれしい。それらを「朝鮮小説集」として一冊にまとめてしまうなんて、なんて心憎い、まさに待ってましたと快哉を叫びたくなるほどの企画。ほんと、版元名通り「インパクト」があった。週刊誌のトップ屋家業から一連の産業スパイ小説、ポルノ小説など膨大な作品群はいまでも入手しやすいが、朝鮮モノはながらく絶版であった。いや「絶版」というよりは、事実上発禁扱いになっていた。本書収録の川村湊氏の「解説」によれば、「ソウルのことを<京城>と書いてあるからという、今ではちょっと信じられない理由によるものであった」という。日本の植民地支配をにおわす表記は差別的・侮蔑的表現として糾弾された。講談社の文庫版『李朝残影』が1978年の刊行、本書収録作品でもる『性欲のある風景』が河出文庫から1985年。出版当時版を重ねるものの70年代から80年代にかけての「言葉狩り」の流れの中、ほどなく書店から消えてしまった。なお著者本人は1975年5月香港で客死。享年45歳。下の書影は75年7月に刊行された別冊新評『「梶山季之の世界」追悼号』。 |
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梶山季之は1930年(昭和5年)、朝鮮・京城(現ソウル)に生まれた。父は朝鮮総督府の役人であり、小学・中学とソウルに暮らし、敗戦を迎えて広島へ引き揚げる。多感な少年時代を「植民者の息子」として朝鮮に暮らしたわけだが、その時期に支配者-被支配者の関係のなかで自覚的・無自覚的しろ生きてきてしまったことへの「負い目」「贖罪の意識」がその後の朝鮮モノ作品のテーマとなっている。金英順という妓生をモデルに「朝鮮の美しさ」を描こうとする日本人絵描き・野口良吉の「李朝残影」。創氏改名がもたらせた悲劇を描いた「族譜」。ともに日本人主人公が植民地支配者側という立場から逃げ出そうと抵抗を試みるが、結局は権力の一端を担わざるを得ない青年の苦悩が描かれる。
のちにベストセラー作家として大衆小説を書き飛ばし、文壇長者番付の上位にランクインする勢いのなかで、朝鮮モノは忘れ去られ、ポルノ作家として膾炙してしまった。
別冊新評『「梶山季之の世界」追悼号』に収録されている友人の柴田錬三郎の追悼文にこうあった。「私は、君の作品は、『李朝残影』しか、読んでいない。君が量産した各種類の長短編を故意に、読むのを避けた」と。
遺稿となった「積乱雲」は朝鮮・移民・原爆という三つのテーマをまとめたものになるはずだった。500〜600枚程度で1冊の本にまとめ、年間2冊を出版し、10年計画の壮大な大河小説であったという。初期作品に流れていた梶山のテーマが、満を持して再び表舞台に出てくる矢先であった。
(か)2004.1.04 |
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