「はだかの王様」の経済学 現代人のためのマルクス再入門 ■松尾 匡 東洋経済新報社・2008年■ |
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20世紀末、ソ連の崩壊で東西冷戦が終わり、ロシア・中国の資本主義化を目の当たりにするなかで、社会主義の敗北、マルクス経済学の無用が声高に語られるようになって久しい。ほんとうに「マルクスは死んだ」のか。私にはよくわからないが、1960年代から70年代前半に吹き荒れた、左傾化した風潮にある種の嫉妬と疑念をいだく「遅れてきた青年」としては、「死んだ」と言い切ってしまうことに胸のつっかえがとれる快感を覚えるものの、いっぽうで、そんな尻馬に安易に乗ってしまうことに抵抗もある。複雑なのだ、私は。だって、マルクスをちゃんと読んだことがないんだもの。 マルクスが提示した「疎外」という『資本論』に通底する根本概念で、著者は、現代のイジメ、ネットカフェ難民、KYことばなどの社会現象から、通貨、国家、労働、もちろん政治経済の諸問題も、保守か革新かなどといった通俗を超えて、ばっさばっさと斬っていく。果ては最新のゲーム理論も「疎外」を使ってわかりやすく解説してくれている。著者松尾匡氏は社会科学界の「内田樹」である! なんせ、切れ味が、胸のすくような鋭さ・明解さなのだ。社会科学理論の美しさにほれぼれとさせられた一冊であった。 マルクスの疎外論は、現代にもじゅうぶんに有効であるし、『資本論』の正しい読み込みには「疎外」の理解なくしては意味をなさないこともよーくわかった。マルクスは生きているゾ。 30年近く前、私の卒論テーマは「疎外」であった。たぶん、何もわからずに原稿用紙に文字を書き連ねていたに違いない。本書で「疎外ってこういうことだったのか」とはじめて腑に落ちること多々あった。いやー恥ずかしい! 思うにどんなに程度の悪いものであったろう。卒論は製本されて保管されると聞いたが、できれば焚書にしてほしいと願うのであります。 2008年6月29日(か) |
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