茶の世界史 中国の霊薬から世界の飲み物へ ■ビアトリス・ホーネガー著・白水社・2010年■ |
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『茶の世界史』とくれば、言わずとしれた中公新書の角山栄先生の本。1980年初版で今も版を重ねる「古典」的名著です。これを読まずして茶を語るなかれ。小舎から出版しているムジカの堀江敏樹さん(ティー・スペシャリスト)の紅茶関連の本には、著者の伝手で、毎度、角山先生に帯の原稿を書いていただいた。だからといって、おべんちゃらをいうわけじゃないのだが、アカデミックに「茶」を語ろうと思えば、初版から30年経っても、この本は、今もって必読の書である。 さて、ここで紹介する『茶の世界史』という書名を最初目にしたときは軽いめまいを覚えた。新書から単行本にバージョンアップされたのかと一瞬勘違いしたほどだ。すでに評価が定まった名著の書名そのまま、というのは、すこしおさまりの悪さを感じた(副題は違うけれど)。他になかったのかな。著者は、ビアトリス・ホーネガーという米国人女性。プロフィールを見るかぎり、在野の研究者のようである。この本がきっかけとなって、美術館のキュレーターを務めるようになったとか。 原題は「Liquid Jade」。「液体の翡翠」「流れる翡翠」が直訳。翡翠は古代中国では「健康と長命に益する霊魂物質を含む鉱石」(あとがきより)と考えられていたそうだ。なるほど。直訳では意味不明のタイトルになってしまう。で、「茶の世界史」。うーん。しかし、内容は文字通り「茶の世界史」。やっぱりこれ以外ないのかな。 霊薬と珍重された古代中国の茶の時代から、南アジアでの植民地経営、アヘン戦争といった、茶をめぐる強欲な帝国列強による争奪・搾取の時代を経て、嗜好品として大量消費される時代へと、ある意味、茶の転落の歴史が、盛りだくさんのスリリングなエピソードで描かれている。著者が欧米人であるという点からすると、意外なほどその視点はフェアで心地いい。 3〜4年前になるだろうか、ティーハウスムジカで、マブロック社(スリランカ)、スリランカ茶業局の方たちによる「倫理的紅茶」なるキャンペーンがあった。「倫理」と「紅茶」の言葉の組み合わせに違和を覚え、当時いまいちよくわからなかったのだが、この本には「フェア・カップ」という章立てで、詳細に解説されている。植民地時代から引き継がれた悪弊や、弱肉強食的な資本の論理によって生み出された、劣悪といわれる労働環境・労働条件ではたらく茶園労働者を、消費者個々人がサポートする世界的なシステムのこと。値段はわずかに高いが、そのわずかな金額を厳しい労働に携わっている現場の人たちに直接還元していこうという仕組みをもった商品である。一般的にフェア・トレードといわれる。30年前にはなかった運動である。茶を語るにおいて、本書もまた必読の書であるようだ。2010.3.6(か) |
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