近著探訪(12)

 たのしい写真 
よい子のための写真教室   ■ホンマタカシ著・平凡社・2009年■
 月刊誌『STUDIO VOICE』が今年9月号で休刊するらしい。雑誌は、私の場合ほとんど買わないのだが、『STUDIO VOICE』は、特集次第で買っていた数少ない雑誌のひとつであった。とくに「写真」特集は必ず手に入れていた。
 じつは、「写真」は好きなのだが、よくわからない。「写真を読む」ということが、どうもうまくいかない。好きな写真・嫌いな写真の別はあるが、それ以外の基準を持ち合わせていない。「これが名作」と言われても、何がいいのかわからないことがしばしばあり、批評する言葉が見つからない。
 最近の木村伊衛兵写真賞の受賞者である、例えば澤田知子さんあたりからよくわからなくなってきた。面白いといえば面白いんだけど、なんで??の印象である。梅佳代さんのときもびっくりしたけれど、これはなんとなくありか、とは思う。でもこういった基準がはたしてどこから来るものなのか、うまく自分の言葉にできないもどかしさを感じている。ドキュメンタリーが好きだということは自覚しているのだが、「読む」ための方法論がない。
『STUDIO VOICE』では「写真集」の紹介が年に1〜2回組まれることがあって、これを参考にお勉強していた。誰もが「外せない一冊」と評価の高いロバート・フランクの『The Americans』だって、やっぱり買っておくかと決断できたのは、この雑誌のおかげである。数年前に天保山・サントリーミュージアム(大阪芸大主催)で開催された「決定的瞬間」の、カルティエ・ブレッソン展に行ってみるかと思えたのも、この雑誌のおかげである。きっかけはいくつももらった。しかし、……。相変わらずの蒙昧なのであります。
 本書は、私のような、なんだか写真が気になるのだけれど、よくわからないことがいっぱいといった、「読み解く術」を持っていない人向けに、わかりやすく写真の「過去」と「現在」を指南してくれる一冊である。
 例えば、「決定的瞬間」と「ニューカラー」という写真の基本的な立ち位置をまず学んだ。
「決定的瞬間」は、私らのような素人写真においてもよく口にするフレーズで、カメラの広告もシャッターチャンスを逃さない機能を全面的に売りにしているからなんとなくわかる。ウチの子が小さい頃、運動会で毎度、決定的瞬間を逃しては家族の不評を買っていたので、個人的にもよくわかる。
 課題は、ニューカラーであった。そのへんの街角や路地、住宅などが撮影された、何の変哲もない写真。「これ、なに?」「何が言いたいの?」と思わせる写真群のこと。著者によれば「等質性」がキーワードという。アンチ・クライマックス。「なるほど、なるほど、なるほど!」。
 いきなり氷解してしまっては、そんな単純なものじゃないよとの声も聞こえてきそうだけれど、「等質性」という用語を獲得できたのは、私にとっては大きな収穫だった。はたして等質性とやらが客観的に存在し得るものなのか、あるいは主観的に創りだし得るものなのか、等質性を求めた写真の視点そのものに等質性は担保されているものなのか、そもそも再現できる概念なのだろうか、そんなこんなは、いろいろ考えさせられるのだが、とりあえず一歩前へ進むとっかかりが見つかった。ありがとう。
2009.7.6(か)
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