静謐のサハリン

著者:松元省平
判型:A4変判(200mm x 210mm)
頁数:55頁
ISBN4-931246-11-7 C0072
定価:本体1500円 + 消費税

【立ち読みコーナー】約80k:「北緯50度線」より

【あとがきから】夏のサハリン撮りおろしフォトエッセイ
私は本来、異国の歴史や文化にあまり興味がないのだろう。それが今回の二度目のサハリン旅行でとてもよくわかった。言葉や生活習慣、歴史や風俗について関心が生まれなかった訳ではないが、それよりも私の興味は、もっぱら風の音や波のうねり、雑草の動きや土くれの匂いだった。朽ちた枯れ枝の形や、海辺の小石や流木がいつまでも気になっている。道行く人の洋服の色や柄よりも皮膚の皺や光沢の方が私の関心事だった。私が海に向かって投げた白浦海岸の流木は、今もオホーツクの渚で波にさらされているだろうか。手の平にのせた水の透明さは今も同じなのだろうか。そんなとりとめのない記憶だけが私の脳のいちばん深い場所にうずくまっている。
 ところで、私の家から少し歩けば西舞子の海に出る。逆光の海がとても気に入っているから、今では季節を問わず私のいちばんの散歩場所だ。バケツを持って釣りにも行けるし、砂浜サイクリングもできる。明石海峡をまたぐ橋も完成し、船が狭い海を頻繁に行き来する。風景はサハリンと全く違うけれど、私がすることは結局同じだ。私は流れ着いたゴミをあさったり、気に入った小石を夢中で探し回ったりする。カモメに餌をやったり、気ままな野良猫の相手をしたり、することはいくらでもある。大袈裟に言えば、人生はとても忙しい。時間なんて直ぐに経ってしまう。そして、どこに行っても同じような事をしている自分を発見しておかしくなる。
 単純であればあるほど気持ちがいいし、素朴であればあるほどより重い手応えがあるということもよくわかった。サハリン旅行から得た最も大きな収穫が、それだった。

【目次】
宗谷海峡 / コルサコフ港 / 熊笹峠 / ホルムスク / タタールの海 / チェーホフ / 丘陵のパノラマ / 台地 / 駅舎 / 北緯50度線 / 湿原地帯 / ノグリキ / 軽便鉄道 / 北の賑わい / 長い夜 / ポロナイスク / 雨の車窓 / オホーツク / 終着駅 / 州都ユジノサハリンスク / 待合室 / 街角 / ひだまり

【著者紹介】松元省平(まつもと・しょうへい)
1948年岡山市生まれ。写真家。1975年、佐賀大学理工学部を卒業後、神戸に移り住む。以後、都市空間と人間の営みをモノクロで記録し続ける。現在、日本の世紀末風景と時代変貌を執拗に追い続けている。著書に『人間の村』(水兵社)『神戸84/86』(風来舎)写真展に「神戸物語」「昭和都市」「村風景」「海峡」「表層‐都市へ」他多数。写真雑誌REPOを主宰。
著者ホームページ「松元省平写真劇場」はこちらまで。

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