●公務員採用試験───────ラオスにないもの【6】最終回

出勤前のアイスクリーム屋さん

市場の玉子屋さん

街角の花屋さん
 ラオスにおける就業率は、98.6%。仕事をしていないひとは、1.6%しかいないらしい。しかし、よくよく聞いてみると就業者274万人のうち半数近くの126万人が無報酬家族労働者という。つまりは、現金を得ていない農業従事者、あるいは山で食べられる食物や獣肉を採集しているだけの人たちが、126万人もいるということなのですね。なんだか、すごい国です。
 公務員の給与は、幹部職員で1万円を少しこえるくらい。国立大学の大学教授でも1万円程度です。その収入で、トヨタ・ハイラックスを乗り回している人が少なくないのは、なぜでしょう? 車の燃料費だけで、月給の半分以上は使ってしまうくらいです。奥さんも別の車を乗り回している。共稼ぎが普通であるビエンチャンの市民生活ですが、車が2台ある家庭は、たいがい奥さんのほうが新しい車に乗っている。奥さんは新車で、夫は中古車というパターンが私の周りにも何組かいます。
 公務員の副業が認められているラオスなので、副業から得られる収入がどれほどあるかは、使っている車や外食生活での支払いを見て想像するしかありません。給与月額1万円の数倍、あるいは10倍以上の副収入がある人は少なくありません。でないと、トヨタの新車は、買えません。車種によって税率は異なりますが、車は日本の倍以上します。日本で月額10万円の月給で、トヨタの新車が買えますか?って、いうことです。
 採用試験がない公務員はどのようにリクルートされるか。どうやら、「口コミ」のようです。別の言葉で言えば、縁故採用。人事権のある課や部が、「誰かいい人いませんか?」という感じで新規採用しているといいます。そうなると当然、「うちの息子よろしく」という話になります。で、同じ職場で働いていた人の息子や娘が親の職場に就職してくるわけです。教員の子供は、教員になる例が多いです、ハイ。これをラオス式身分制社会といいます。実のところ、ラオスは北朝鮮と似た身分制社会なのです。が、そのことを論じた社会科学書は、まだ見かけません。書くとヤバイのでしょうね、きっと。何しろ、一党独裁国家。政府の首相や大臣が、党の幹部にお伺いを立てながら政治をしているような国です。 ラオスでは「例外」扱いが多くて法律はそれほど機能していません。法律よりも重んじられるもの、すなわち憲法のようなものがあります。それは、党の序列です。序列3位の人は、序列8位のひとより当然偉いのです。政府の首相はせいぜい8位くらい。これでは行政が機能するわけありません。

【著者紹介】庄野護(しょうの・まもる)
1950年徳島生まれ。中央大学中退。アジア各地への放浪と定住を繰り返し、文化・言語の研究を続ける。タイ、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、スリランカ、パプアニューギニア、ケニアなど、アジア・アフリカでの活動歴は40年、滞在歴は20年ちかくになる。多様なフィールド体験に裏うちされた独自の視点をもつアジア研究者である。著書に『国際協力のフィールドワーク』『スリランカ学の冒険』『パプアニューギニア断章』(南船北馬舎)、『学び・未来・NGO NGOに携わるとは何か』(共著・新評論)。現在、ビエンチャン在住。

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