■第5回■■ネット古書店とのつきあい方■

 ニューギニア関係の本を最近漁っている。知人が近々現地に行くことになるかもしれないというきっかけで俄然気になりだした。1960年代から70年代にかけて文化人類学という新しい学問がそのフィールドとして注目した地域と言われている。当時石器時代のままの文明に生きる部族が住んでいたことから、世界中の人類学者の垂涎の地であった。本多勝一の著作にもニューギニアの本があったが、その頃のムードを背景に出されたものだったのか?
 さてとりあえずの入門書として、楽しく読めるおすすめの一冊を紹介してもらった。
 有吉佐和子『女二人のニューギニア』(朝日文庫)。当時(60年代)ニューギニアの最奥地に住み込んで研究していた日本人人類学者畑中幸子さんに同行したニューギニア密林紀行。これが実に面白い。有吉作品をまったく読んだことがなかった私は、ああこういうノリの人だったんだと、ひどく親近感を覚えてしまった。やっていることはとてつもなく激しい冒険なのだけれど、著者のなんとも正直で情けない言動が抱腹絶倒もので久しぶりゲラゲラ笑いながら読んだ一冊だった。
 読後、気になったのが畑中幸子女史のことである。欧米からの人類学者の多くがその生活環境の過酷さから早々に逃げ出してしまったニューギニアの地に、なんとあれそのもっとも最奥部の密林で嬉々として(と感じられる)、女ひとりで研究を続けた畑中氏とはいかなる人物なのか?
 仄聞するところ50〜60年代ふたりの気鋭の女性人類学者がいた。その一人が畑中氏。そしていま一人は中根千枝氏。こちらの方は「タテ社会の人間関係」をひっさげてブレイクスルーしてしまったが、畑中氏のほうは一般受けがなかったせいか、実力派と評価されながらもあまり知られていない。あれだけの艱難辛苦の研究生活にたいしてもっと敬意を表してしかるべきだと強く思うのだ。(と書きながら、不勉強ゆえの言辞を弄しているのかもしれないという不安を感じるけれど。)というのも畑中氏の当時のニューギニアからポリネシアにかけての一帯をフィールドにした著作物がことごとく絶版になってしまっている。岩波新書『南太平洋の環礁にて』(1967)、三笠書房『われらチンブー』(1974)、増補改訂版の中公文庫『ニューギニア高地社会』(1982)。
 さて、今回はこの絶版物の中身を云々するのではなく、その古書を入手する過程で遭遇したことをくねくね書き連ねることにしたい。ネット古書店とのつきあい方である。
 私がよく利用するネット古書店での書籍検索は「スーパー源氏」というサイトだ。これまでにも大いにお世話になった。書籍名や著者名で検索をかけるとその在庫を保有する古書店のサイトがリストアップされる。クリックするとその古書店のホームページに移動する。注文方法や決済は「スーパー源氏」自体は関係なく各古書店によって違ってくる。オーダーフォームが用意されているところであったり、ブラウザのメールソフトが起動してメール送信にて注文するところであったり。また支払いは後払い、代引き、先払いなど様々である。今回も検索をかけると『南太平洋の環礁にて』がちゃあんとヒットした。便利な世の中になったものですな。お代1200円とあった。しかし数日たって再度確認するとヒットしない。たった数日のことで売れてしまったのか。ないとなると無性に手に入れたく、いてもたってもいられない。便利な世の中になってるんだから、ここであきらめることはない。もう一つ、「OldBookMark」というサイトがある。「スーパー源氏」と同じシステムで在庫を保有する古書店リストが表示されその古書店のサイトに移動して注文する。こちらもときおり利用している。検索をかけるとヒットした。今度はまったなしにすぐ注文する。半日ほどすると古書店から注文確認メールが届いた。代引発送で本代1000円、代引手数料と送料が590円の計1590円とある。指定された郵便振替口座に先払いで支払えば1270円と書かれている。私はネットでの買い物はぜったいに「後払い」もしくは「代引き」にしている。「先払い」はしない。この姿勢を貫いてきた。しかしである。魔が差したというか、この場合郵便振替は70円ほどの手数料だから「先払い」のほうが得、とまったくせこい考えで「先払い」を選んでしまった。と、指定された振替口座へ振り込もうとすると郵便局員は電信扱い専用の口座だから手数料が210円かかるけどいいですか?って言いながら、ふだん見たことのない振替用紙を渡してくれた。んっ?知らなかった。振替口座が1から始まる番号は電信専用らしい。ふつう0から始まってるでしょ。あれが普通振込で手数料70円。たしかに古書の場合は「売り違いごめん」の世界、電信の速度が求められる。それはわかる。でも、それじゃあ注文確認メールにその旨書いておいてよ!とぶつぶつの結果、計1480円。難しく考えずあっさりと「代引き」にしておくべきだったのだ。わずかのお金のことでブルーになってしまった。ええ年こいたおっさんが何をやってるんだ!情けない。
 さて届くだろうか?「先払い」を徹底して避けてきた私である。疑り深い性分である。心配性でもある。……そして、やはりというべきか、案の定、1週間たっても届かない。その旨メールすると配送便の手違いで戻ってきてしまった、必ず届けるからいましばらく待てという内容のメールが届いた。しかし、あれから3カ月が過ぎて……、いまだ届かないのだ。どうなってるのよお?中国地方某県所在のP文庫さん!
 そしてさらにこれにはつらい結果が待ち受けていた。1カ月ほど前。久しぶりに神戸駅地下のメトロ神戸の古本屋を覗いた。なにげなく100円均一コーナーに目をやったとたん、岩波新書『南太平洋の環礁にて』が待ってましたとばかりに目に飛び込んできた。
 うーん、便利な世の中にはなっているが、やはり古書は足を使って求めよ!(
平七丸)

■ななまる通信の目次へ。